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昔の記憶をたどって、この道でよかったのかと危ぶみながら、

笹藪になりかけた細道を進んでみましたが、すぐに道は林の中に消えてしまいました。

・・・・・

そのお寺の跡は私が小さいころに行ったことのある場所で、江戸時代に山の中にあったお堂を

里に移築した跡なのだそうです。

里から離れた大きな岩がある険しい場所でしたが、

お堂をおいて、岩にたくさんの洞窟を掘って石仏を祀ったのだそうです。

私が小さかった当時は大人たちと一緒に見学の一行に加わり、

ロープを伝って岩の上に上り、岩の割れ目に残っている数々の石仏や祠を拝んだものでした。

詳しい行き方はよく覚えていませんが、高原に上っていく舗装道路から、

その場所への道がわかれていたことだけは覚えていました。

・・・・・

私は今年も、小さい頃を過ごしたこの里にきていました。

そうして毎年来るたびにこの土地の山が深くなってきていると感じます。

小さい頃父親から教えられた、尾根沿いの林道はたくさんの倒木で通れなくなっていました。

以前は見ることもなかった獣たちを、それほど遠くない山の中で見かける機会がふえました。

山中にあって、湧き水があるために石囲いがされていた場所が、

今ではすっかり埋もれていました。

私の祖母は、幼い私にこうした山の中で水が取れるところを教えてくれていたのでした。

年ごとにこうした変貌を感じていた私は、

ふと小さいころに訪れた思い出のある、そのお寺の跡に行ってみたい気持ちが湧いて来たのでした。

・・・・・

今の季節は冬。

暖冬のため雪はなく、葉をおとした落葉樹の間に植林の針葉樹が暗く茂って、林の中を寒く感じさせています。

くだんの舗装道路は林の中を蛇行しながら高原へと上っていくのですが、

私の記憶ではそのカーブの一つに林の中に入っていく道があるはずでした。

私はカーブに差し掛かるたびに林の中をうかがってそれらしい道があるか探してみました。、

なにかを思い出せないかと行ったり来たりする必要がありました。

そんなところ、ある苔むした巨大な岩にどこか見覚えがあるような気がしました。

そこで試しに林の中に踏み込んでいくと細い道を見つけました。

・・・・・

その道をたどると一旦は尾根沿いに上るように見えていましたが、

途中でいくつもの倒木に阻まれて消えてしまいました。

私はこのまま上って尾根沿い上るか迷いましたが、比較的に倒木の少ない谷筋を上っていくことにしました。

手入れがされていない林の中をしばらく歩くと遠くの尾根上に岩が露出した小ピークが見えてきました。

岩の間に松が生えているのが見え、その間に石塔が立っているのが見えました。

・・・・・・

私は尾根にある大きな岩山にとりついて、木の根や岩のでっぱりをつかみながらのぼっていました。

この岩山をなしている巨岩にロープや小道がつけられているものと期待していましたが全く当てが外れていました。

人の手が入っていない岩を行き当たりばったりに這い上るといった感じです。

途中、岩の陰に奥まった岩窟があって中に祠があるのをみつけました。

岩の間に板を渡してお参りができるようにしてあったようですが

ところどころ中板が落ちてしまって覗き込むのがやっとでした。

頂上までのルートを探していると上方から鳥か動物が警戒して鳴く声が聞こえました。

・・・・・

私は結局そのルートから上まで上るのはあきらめて降りてしまいました。

かつてはその中に石仏を安置していたのでしょう。巨岩の足元にはたくさんの岩窟が掘られていました。

石仏や石塔がわずかに残されていました。そして一本の杉の大木がかつてのお堂の場所を示していました。

私はまだ小さいころに上った事がある、岩山の頂上に行くことをあきらめていませんでした。

そこで岩を登るルートがどこかに残っていないか探して岩山を回りこんでみました。

行く先々にもやはり岩窟がほられていましたがなにも残ってはいませんでした。

崩れやすくなっている岩の足元に注意しながら移動しているうちに、また先ほどの鳥か動物の警戒音がきこえました。

そうして遠くの藪が動いたようでした。

私は自分が招かれざる客として、近寄ってはならないすみかに、にじり寄っているのがわかりました。

同時に少し空恐ろしくもなりました。

野生のものは、人が近寄れば逃げてくれるばかりとは限りません。

私はいい加減この巨岩から立ち去ることにしました。

・・・・・・

私は先ほど上ってきた谷筋を今度は下りながら、

私が小さかったころのように岩の間に置かれた石仏を訪れる人は

誰もいなくなったのではないだろうかと思いました。

そしてまた野生のものが住んでいると知ったら人々はどうするだろうとも思いました。

私はただ立ち去るのみで何者にせよ邪魔するつもりはありませんでした。

歩いている途中で湧き水が出ているのを見つけました。

湧き出た水が水たまりを作り、あふれた清水が林の中に気ままな小さな流れを作っています。

やがて私は舗装道路にもどりました。そして山の中を蛇行する道路をたどって里に下りてゆきました。

・・・・・

2019/01/23(水) 00:06 日記 記事URL COM(0)
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